老子の言葉をわかりやすくお届けします

目に見えないものを大切に

フランス人の小説家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの名作
『星の王子さま』の中で語られる、有名な言葉。

 

「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。
かんじんなことは、目に見えないんだよ」

 

「大切なものは目には見えない」というこのメッセージは、
「なんでも目で見よう、見えないものは信じられない」
という私たち現代人の心を強く揺さぶるものです。

 

実は、老子もまた、この言葉と同じような教えを残しています。
老子思想の中核に「無為=何もしていない(ようにみえる)」がありますが、
これもまた、実体は見えないもの。

 

「あるかないかわからないもの、実体の見えないものから受ける恩恵は、
どんなものにも比べようがないくらい大きい」
…老子はこのように語り、
実体が目に見えないもの、存在が意識されないものが及ぼす、
その力の大きさについて畏怖を表してたいのです。

あるかないかわからないものこそ力を持つ

「無有入無間」
(有る無きものは、間無きに入る)

 

あるかないかわからないものこそ、隙間のないところまで入っていける。
…この、「あるかないかわからないもの」の代表として、
老子は「水」を例に挙げています。

 

確かに水は、指でつかみ取ろうとしてもつかめません。
しかしながら、土石を動かして地形を変えるほどの強大なパワーを持っていますし、
どんな狭い所にでもじわりじわり(あるいはスルスルと)入り込んでいって
巨大な岩を押し流したりします。

 

実際、東日本大震災の際の津波の映像を見れば、
水が持つ力が我々の想像をはるかに超えていることを思い知らされることでしょう。

 

老子は、言っています。
「言葉によらない教えや無為によって受ける恩恵は、
どんなものにも比べようもなく大きい」
確かに、水や空気のように一見「実体がない」ように見えるものこそ
この世界を根本から支えてくれているもの。
空気がなければ、水がなければ、私たちは生きることさえできないのですから。

 

文明に胡坐をかいて便利な生活に慣れっこになっている私たちは、
自分達の命を支えてくれている「実体なきもの」を忘れてしまいがち。
「実体なきもの、けれども大切なもの」に心を寄せる、
そんな余裕のある生き方を目指したいものですね。

理想のリーダー論にもつながる教え

あるかないかわからないくらいの、実体のつかめない存在。
そういうものこそ、実は世界を変えるだけの力を持っている…。

 

老子の言葉を一通り読んだことがある方なら、
この教えが、老子の「理想のリーダー論」にもつながっていることに
お気づきのことでしょう。

 

老子曰く、「指導者(リーダー)に必要なのは“存在感”だけ」
特別に親しみを感じられるわけでもなく、
尊敬されるわけでもなく、
好意を寄せられるわけでもなく、
かといってバカにされるわけでもない。

 

「○○さんが部長になってから仕事がやりやすくなったよね」
なんてことさらに感謝されるようなこともなく、
ただ、「そこにいる」という存在感だけを意識される上司。
それこそが、理想的な在り方だと老子は言うのです。

 

「何もしていないように見えて、実は大きな役割を果たしている」
これは、実体がないように見えて
実は大地の形状を変えるだけの力を秘めている水と同じこと。

 

これからリーダーになる人は、ぜひ、
ことあるごとに老子のこの言葉を思い返し、
自らの在り方を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。