老子の言葉をわかりやすくお届けします

合理的な老子の教え

老子といえば、逆説的な教えが特徴的ですが、
実は、非常に合理的!理にかなったメッセージも多いのです。
その代表的な例が、次の言葉。

 

「噪は寒に勝ち、静は熱に勝つ」

 

動き回っていれば寒さに勝てる。
静にじっとしていれば暑さに勝てる…というわけです。
確かに、寒い時に「寒い、寒い」とじっと立って震えていても
体はどんどん冷える一方ですし、
逆に暑い時にやたらに動き回ればかえって汗をかくだけ。

 

老子がこの言葉で言いたかったことは、
「動くことにも、静かなことにもそれぞれ利点はあるよ」
ということ。
どちらを選ぶかは、状況次第。臨機応変に決めなさいよということでしょう。

 

老子と言えば、「清静」であることを良しとする考え方が有名ですが、
頭ごなしに「噪」を否定していたわけではなさそうですね。
このような点からも、老子は決して一方的な見方しかできない
偏った思想家などではなく、
一つの物事を多角的にとらえられる“バランス感覚”の持ち主だったことがうかがえます。

「静か」であれ!

清静にも、躁にも、それぞれにメリットはある。
どちらを選ぶかは状況次第だ。

 

…そのような教えを残した老子ですが、
やはり最終的には「清静なるものが世界を治める」と考えていたようです。
そのような思想は次の言葉によく表れています。

 

「清静為天下正」
(清静は天下の正たり)

 

清澄で静かなものこそが世界の長となる。
…つまり清らかで静けさを保てるものが世界一になるんだよ、というわけ。

 

実はこの教え、リーダー論にも通ずるものがあります。
すなわち、

 

「優れたリーダーは、ごちゃごちゃとやかましく騒ぎまわったりしないもんだよ」
「リーダーたるもの、部下を信じて清静としていなさい」

 

という戒めですね。
あれや、これやと細かい部分にまで首を突っ込んで指示を出すのではなく、
一度任せたのならば、部下を信用して任せることも上司の仕事。
清静に部下を見守ることもまた、リーダーの大事な役割の一つです。

静けさが全てを制する?

清静なることを重んじた老子はまた、次のような言葉も残しています。

 

「重為軽根、静為躁君」
(重きは軽きの根たり、静かなるは躁がしきの君たり)

 

重いものが軽いものの根本を支え、静けさは騒々しいものを支配する。
…ここで言う「重いもの」とは「人格」という基盤を意味し、
これが出来上がっているからこそ、軽い冗談も言えるんだよ、と言うのです。

 

活発に議論を交わすことはもちろん大事なことですが、
(実際、老子が生きた時代には多くの思想家が台頭し
「百家争鳴」という言葉まで生まれていましたから…)
老子は、騒がしいほどの議論を重ねることを疑問視していたようでもありますね。

 

大事なのは、「どんな言葉を発するか」「どんなに理路整然と意見を主張するか」
という表面的なことではなく、それを支える“根っこ”=人格があるかどうか。
しっかりとした根っこを持った人は、清静としていても存在感があるし、
最終的には人の心を動かす力がある。
…そのようなことを言いたかったのでしょう。

 

人間、ともすれば言葉の力に押し流されてしまいがちなところがありますが、
その言葉の根本に“確たるもの”があるのかどうか、
物事の本質を見極められる力を持ちたいものですね。