老子の言葉をわかりやすくお届けします

「一」という数字が持つ意味とは

みなさんは、「一」という数字からどのようなことを連想しますか?

 

「始めの一歩」「第一人者」「千里の道も一歩から」
…などの言葉にも象徴されるように、「始まり」「最初」「スタート」
そんな意味を持つ数字ですよね。

 

老子もまた、この「一」という数字の重みを重要視していたようです。
一は、全ての数の始まりであり、物事のスタート地点。
すなわち、万物の根源とも言えますよね。
それはつまり、老子の思想の根幹にある「道」とほぼ同じ意味を持つもの。
世界を形作る“元”になるものなんです。

 

世界の始まりがなければ、文明だって起こり得なかったでしょう。
そういう意味では、私たちのこの現代文明もまた、
「一」という始まりの数字の上に成り立っているものと解釈できます。

一から生じた純粋なものを大切に

世界のスタート地点は「一」という数字にある。
「一」 は世界の根源である。
…そんな教えを説いた老子はまた、次のような言葉で
「一」 が作り出したこの世界の尊さや純粋さを教えています。

 

「天得一以清、地得一以寧」
(天は一を得て以て清く、地は一を得て以て寧し)

 

天は一を得ていまだに清澄さを失わず、地は一を得てずっと安泰である。
…つまり、天も地も「一」を得て生まれたものであり、
生まれた時のままの純粋な姿を保っているよ、ということ。
これはすなわち、「人間はどうだい?」という私たちへの問いかけでもあるわけ。

 

さて、私たちの文明はどうでしょうか?
「一」 から生まれた純粋なものを守ることができていますか?
むしろ、それを壊す方向に発展していると言っても過言ではないのでは…。

 

実際、老子は、
「一から生じた純粋なものを損なおうとしているのが文明だ」
と、人間の文明を痛烈に批判していたようです。
当時でさえそうだったのですから、
文明発展による自然破壊の影響が目に見える形で
顕在化している現代社会に生きていたら…。
さぞや嘆き、怒っていたことでしょう。

自然との共生に立ち返る

「自然との共生」、使い古された薄っぺらな表現ですよね。
老子のメッセージは、確かにこの「自然との共生」を教えるものではありますが、
もっと奥が深いものです。

 

老子が伝えたかったのは、単なる文明批判ではありません。
文明の根底にある人間の“欲望”や“おごり”…、
こういったものにとらわれることこそが、
人間自身を(つまりは自分自身を)不幸せにしているというのです。

 

自然の“無垢な”在り方に学び、人間もまた、自然に回帰する。
それが、老子の説く「幸せのカタチ」。
合理的な文明に慣れきってしまった私たちにとっては
いささか難し過ぎる課題のようにも思われますが…。

 

近年、老子の思想が再び注目されているのは、
文明につかれた私たち人間の“本質”が、
無垢な自然への回帰を求めていることの一つ表れなのかもしれません。

 

どんなに戻ろうと思っても、文明前の人間に戻ることはできないでしょう。
しかし、老子曰く、
「戻れないなら少しでも近づけるように無為に身を置くべし。
そして、道と一つになりなさい」
…この言葉の重みを、私たち人間一人ひとりが
今一度かみしめるべき時にさしかかっているのではないでしょうか。