「道」は「無名」
老子思想の根幹を成す「道」という考え方。
目で見たり、触ったりして確認できるような“実体”があるものではない
…とされていますが、それでいて「万物の根源」でもある。
感覚的にはなんとなく理解できても、
「わかったような、わからないような…」
曖昧模糊とした“消化不良感”が残る思想でもあります。
そもそも、「道」という名前さえも“仮”のもの。
それは、老子の次の言葉からもよくわかります。
道常無名樸。
雖小、天下不敢臣。
(道は常に無名の樸なり。
小なりといえども、天下あえて臣とせず)
「道」は永遠に無名である。
手が加えられていない素材(伐りたての原木)のようなものだ。
名もない素材は小さいけれど、誰もそれを支配することは出来ない。
…私たちが使っているテーブルやタンス、フローリングも、
元をただせば、「森から刈り出した木」。
切ったばかりの時は、「どんなものにもなり得る」素材なわけです。
この「樸」は、「人」に重ねて考えることもできます。
生まれたばかりの赤ちゃんには、
何者にでもなり得る可能性と、
(持って生まれた“才能”など、
ある種の“限界”があるのは否めませんが…)
本来は誰にも支配され得ない「自由」があるのです。
「道」は「海」とイコール?
「道は無名」の言葉に続いて、老子は次のように語っています。
「天と地は相合し恵みの雨を降らせるが、
それは誰かが雨に命じて広くまんべんなく降らせているのでなくて、
ひとりでに、自然に降っているのだ。
管理が始まると名前が出来るし、
名前が出来ると適当なところでとどめる事を知らねばならぬ。
これが『限度』であり、
限度を知れば危険を免れることが出来る」
これはつまり、天地(=自然?)は誰かの管理下にあるものではないし、
限度もない。
本来は「名前」すらないものだ…と言っているようなもの。
ここからも、
「“道”とは、本当は名前すらつけられないようなものなんだ」
という考え方が見て取れますよね。
さらに老子は、次の言葉で
「道」と「海」の共通点について触れています。
「譬道之在天下、猶川谷之與江海」
(たとえば道の天下に在るは、
なお川谷の江海に与するがごとし)
「道」は天下に有るすべてのものが行き着く所だ。
すべての谷川が海に流れ込むのと同じように。
…これを読んで、「ああ、なるほど!」と納得する方も多いのでは?
海も、「命の源」と言われますからね。
「生み出す」場所であり、同時に、「全てが還っていく場所」でもある。
これが、「海」と「道」の共通点でしょう。
海のように優しく、厳しく
「落ち込んだ時に海を見ると気持ちが落ち着く」
という方も多いのでは?
寄せては返す波をじっと眺めていると、
引いていく波と一緒にネガティブな気持ちも海に吸収されていくような
そんな錯覚を覚えることがあります。
また、海の組成は羊水に似ているとも言われますから、
どこかしら母親の胎内を思い出させる要素があるのかもしれません。
しかし、海はいつでもおおらかで優しいわけではありませんよね。
東日本大震災では、大津波によって多くの方が失われました。
海は、おおらかなやさしさに満ちていると同時に、
時として激しく荒れ狂う“無情”な一面も持っているのです。
つまり、海もまた誰に管理されているものでもない“自然”なものであるため
「限度」がないということ。
本来は、「海」という名前さえつけられないものなのかもしれません。
そこも、「道」と似ていますね。
道もまた、仮に「道」と呼ばれているだけであって、
本当は名づけて表現することさえできない「無形の“象”」ですから…。
広くまんべんなくゆきわたる“道”、そのあり方は、
川という川が海に注ぎ込んで安んじるその様子にもたとえられますが、
同時に、「人間だけをえこひいきして優しくしてくれるわけではない」
という厳しさも持ち合わせているのです。
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